相手の安心を担保しなければ自由な意見を言えない。

結果を大きく変えてしまう誤審

世界大会やオリンピックなどで起こってしまう誤審が時々話題になります。大会が年に1回だったり、4年に一回だったり、そこを目指して練習を重ねてきた選手にとっては、誤審はあってはならないことです。なぜならば、誤審によって結果が大きくかわってしまうことがあるからです。

これまでに日本では特に話題となった誤審と言えば、今から約20年前。2000年シドニーオリンピック男子100kg超級決勝での篠原信一選手の試合での誤審です。篠原選手の技が決まったように見られていたのですが、相手の選手にポイントが入ってしまい、篠原選手は金メダルを逃してしまいました。

関係者が抗議をしましたが受け入れられず、判定が覆されることはありませんでした。誤審と思われる判断により、大きく結果が変わってしまった出来事です。

ビデオ判定が取り入れられていないスポーツもある

こうした誤審をなくすために有効とされているのがビデオ判定です。しかし、その導入には時間がかかること、そして、いまだにビデオ判定が取り入れられていないという現実があります。

その後、2016年に本塁クロスプレーも対象となり、2018年からは「監督が審判の判定に異議がある場合、ビデオ映像によるリプレー検証を求めることができる」というルールが施工されました。

例えば、先ほどの柔道でビデオ判定が本格導入されたのは2007年からです。また、日本のプロ野球でビデオ判定が導入されるきっかけになったのは2006年の試合です。その後導入されたのは2010年に「本塁打に限って」という条件付きでした。

ビデオ判定が試合全体の有効な手段として受け入れられるのに12年もかかっているということになります。そして、同じスポーツの世界でも卓球などではビデオ判定は取り入れられていません。

ビデオ判定へのハードル

かつては、映像技術が今ほど進歩しておらず、画像の鮮明さなどビデオ判定への技術面でのハードルがあったようです。しかし現在の技術であれば、ビデオ判定は有効な手段であることを否定する人はいないでしょう。

最もその技術が進んでいると思われるのはテニスです。10台のカメラを使用し、ボールの軌跡を瞬時に映像解析を行う「ホークアイ」(鷹の目)という技術が導入されています。

こうした技術があり、有効であることは否定できない状況にもかかわらず、何故なぜ、そんなに時間がかかるのでしょうか。

確かに、ルールをあたらしくすることは簡単ではありません。1つのルール変更だったとしても、様々な影響があるからです。

ビデオ判定でも微妙な場合にはどちらを優先するのか。ビデオ判定が多くなれば、試合時間にも影響します。また、試合会場によってビデオ判定の精度が異なることは好ましくありません。こういった様々な要因を考えながらルールを決めなければならないからです。

責められるという恐怖

しかし、一番の要因は運営側の自己防衛だと私は考えています。

もし、あなたが選手だったとしたら、ビデオ判定により、間違った判断だったと証明されたとき、その審判を責める気持ちにならないでしょうか。「ほら見ろ!ちゃんと見ろよ!」真剣であればあるほどそういった気持になることもあります。

反対に、審判の立場になって考えてみてください。自分が下した判定が間違いだと覆されたら、こうした批判をうけてしまうという恐れの気持ちを持つのではないでしょうか。

そうなれば、審判の判定への信頼性は失われてしまいます。これは審判にとって大変な恐怖です。そして、審判の質は運営側の責任でもあります。

人には防衛本能があります。責められたくないという気持ちを持っています。そして、責めればその防衛本能はもっと強くなります。

こういった自己防衛本能が導入を遅らせているのではないかと感じています。

審判にとって安心の場であるということ

では、もし、審判の判断間違っていたとしても、責められることはない。人間の判断なのだから間違いはある。そして、ビデオ判定は審判を責めるためのものではなく審判を助けるためのものだという共通認識があったらどうでしょう。

この認識があれば、導入は進むのではないでしょうか。審判が自信をもって判断ができる。間違っていたとしてもそれを責められることは無い。つまり、審判にとって、安心して判断できるという状況ができるからです。

運営側にとっての安心できる環境であれば、防衛本能は働きにくく、新しい制度の導入はスムーズになるでしょう。

組織の中でも同じことが起こっている

こうした自己防衛本能が働き、新しいものを取り入れることに時間がかかったり、新しい発想を阻んでるということは、私たちの属する組織の中でも起こっています。

会議中に従業員が意見をほとんど言わない。しかし、一歩外に出ると従業員同士で会議の内容を話している。また、会議で決められたことが守られないということが起こっていないでしょうか。

何故、会議中に意見が言えないのでしょうか。それは、ビデオ判定導入に対する運営側の気持ちと同じです。批判されることへの恐怖心、防衛本能です。

こんなことを言ったら怒られるのではないか。批判されるのではないかという気持ちがあるからです。だから反対意見があっても発言はしないし、問題解決するためのアイデアがあっても会議中に発言をしません。

安心して話せる場ではないのです。その結果、会議室を出てから同僚と話すということが起こるのです。

会議で意見が交わされないもし、決めたことが守られない。それが悩みならば、安心して発言できるという環境を用意してあげてください。

自己防衛本能をコントロールできている環境こそが車内でのコミュニケーションを活発にします。そして、それがあたらな発想を生み、新しいものを取り入れるハードルを下げます。